馬方 馬の足 もう一本ぶった切って「それっ」とうしろへ投げて、二本足の馬に乗って
ガッタガッタ ガッタガッタ峠の道を逃げた。
したればやまんば、その馬の足もばりばりくっちまうと、すぐまたおいかけてきた。
「これまて。その馬の足もう一本おいてけ」というもんで 馬方こりゃもうとても逃げおせるも
んじゃないと思って馬を丸ごとそこにおいて 藪をこいてわらわらと山の中を逃げていった。
したれば、沼があって、その沼のほとりに高い木があったもんで木によじ登って上でじーっと隠れ
ていた。やまんば 馬にまたがると馬をばりばりくっちまってすぐにまた追いかけてきた。
沼のところまでくると、その沼のなかに馬方の影が映ったもんだから、
「おまえそんなところに隠れていたのか 隠れたってダメだぞ」と沼へどぼーんと飛び込んだ。
それを見て、馬方 木からするすると降りてきて、また藪をこいでわらわら山の中へ逃げていった。
したれば うまいことに小屋が一軒あった。
「こりゃあいい隠れ家だぞ」と中へとびこんで、梁に上がって一休みしていた。
しばらく休んでいると さっきのやまんばが、ずぶぬれになって入ってきた。
「おお寒い、寒い 今日は魚いっぱい食って、馬くって腹一杯になった。どれ甘酒でも湧かして飲む
か」って言って、いろりに大きな鍋で甘酒を沸かしだした。
自分はくるりと背中を向けて背中あぶりをした。
甘酒がちょうど湧いた頃、やまんばはくらーんくらーんと居眠りを始めた。
それを見て梁の上の馬方 屋根の茅を一本ぬいてつっぱつっぱと甘酒をすっちゃった。
そしたらやまんば、目をさまして、「オレの甘酒飲んだやつはだれだ」と言った。
梁の上の馬方 ちっちゃい声で「火の神、火の神」って言った。
「火の神さんが飲んだんじゃあしょうがない どれ餅でも焼いて食うか」と言って餅を三つもってき
て、自分はまたくるりと背中向けて 背中あぶりをはじめた。
餅が焼けて ぷうっとふくらんできたころ また山姥はくらーんくらーんといねむりをはじめた。
それをみて梁の上の馬方さっきの茅で 餅をつくんとさして食べ、つくんとさして食べ 三つとも食
ってしまった。したればやまんば目をさました。「おれの焼き餅食った奴は誰だ」って叫んだ。
梁の上の馬方 ちっちゃい声で「火の神 火の神」って言った。
「火の神さんが食ったんじゃしょうがない。じゃあ寝ることにするか、木のからとにへえって寝るか 
石のからとにへえって寝るか」とひとりごとを言った。
梁の上の馬方 ちっちゃい声で 「木のからと、木のからと」と言った。 
「火の神さんがおっしゃったんじゃ、木のからとにするか」てんで木のからとに入った。
それを見て馬方 梁から降りてきて 湯を沸かして もみ錐を持ってきて その木のからとにきりき
りきりきり穴をあけた。
「明日は天気だがあ きりきり虫がないてら」なんて言ったけど、かまわず きりきりきりきり穴開け
て、穴が開くと熱湯を持ってきて 穴から熱湯を注ぎ込んだ。
やまんば はじめのうちは「このねずみやろう しょんべんかけやがって」って言っていたけど かま
わず熱湯を注ぎ込んでいったら、しまいに山姥「あっつい、あっつい 助けてくれ 助けてくれ」と
叫んだ。けれど馬方「おれの魚と、だいじな馬を食ったかたきだ」って言って 熱湯をどうどうと注
ぎ込んだ。やまんば とうとう死んでしまったと。こんで、えんつこもんつこ、さけた。
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